コア技術とスキルアップ このエントリをはてなブックマークに登録

2016年03月22日

irohirokiirohiroki

はじめに

ソフトウェアに限らず、開発を事業にする組織は競争力強化のためにコア技術を持つ必要があります。一方、エンジニアは自分の市場価値を保ち高めるために、常に新しい知識をつけスキルを磨かなければなりません。本エントリではこの両者の関係を整理し、組織の競争力強化とエンジニアのスキルアップに対するKRAYの取り組みを紹介します。

コア技術

コア技術とは、複数の商品に利用できる、組織の構成員に蓄積されたある分野の知識のことです。例えば、ある家具工房に曲げ木細工のできる職人さんがいて、様々な曲げ木の家具を販売していたら、その工房にとって「曲げ木」はコア技術です。まずコア技術について少し説明します。

企業の競争力

企業が存続するには、顧客に価値を提供し、代金や報酬を得なければなりません。さらに、殆どの場合は競合する企業がいますので、その中から選ばれる必要があります。つまり競争力を持たなければならないということです。

競争力を持つには、競合ができないことで価値を提供できるのが理想的です。たとえ競合にはない新機能をリリースしたとしても、すぐに真似されては大した競争力になりません。商品は見えてるのに、その開発は真似できないという状態を目指すべきです。

MOT[技術経営]入門では、競合に真似されにくい企業の財産として組織能力を定義し、解説しています。同書によると、組織能力とは「企業が持つ資源と、それを活用する能力」(P.50)です。また、企業の資源として以下の3つを挙げています。

  • 技術的資源(特許、データ、機器)
  • 人的資源(知識)
  • 組織ルーチン(プロセス)

つまり上のような資源を持ち活用することが、企業にとって競合に真似されにくい競争力になるということです。

ソフトウェア開発のコア技術

さらに同書では組織能力を以下の「3つの分野」に分けて説明しています。

  • コア技術
  • 組織プロセス
  • 事業システム

コア技術は上述の通り、商品に応用できる蓄積された知識を指します。

組織プロセスとは、QCD(Quality / Cost / Delivery)を改善する組織能力です。組織プロセスの優れている企業は、他の企業と同じ事業をやってもより高品質なものをより早く低コストで提供できます。

事業システムとは、複数の企業間の関係や取引の構築によって作られる組織能力です。部品の供給元や商品の販売先との間に、いかに有利な、利益を得られる関係を築けるかがポイントになります。

今回のテーマはコア技術です。MOT[技術経営]入門は製造業を想定した内容ですが、コア技術の概念はソフトウェア開発にも当てはまると思います。例えばAndroidアプリを開発するとき、ノウハウのある組織とない組織でどちらが有利かは明白です。ソフトウェア開発を生業とする企業は、時代にあったコア技術を育て、顧客が望むソフトウェアの開発を成功させ続けなければならないのです。

エンジニアのモチベーション

組織の能力といっても、実際に能力を持っているのは構成員である個人です。エンジニアにモチベーションがなければ、能力は育てられません。本章ではエンジニアのモチベーションと能力向上について考えます。

モチベーション3.0

ダニエル・ピンクはモチベーション3.0の中で人を動機づける要素として以下の3つを挙げています。

  • 熟達:結果として自分の能力が磨かれること
  • 目的:魅力的な目的があること
  • 自律:自分でやり方を決められること

エンジニアが意欲的に働くためにもこの3つは重要です。企業がコア技術を育てようとするとき、これらの条件が満たされるか考えてみます。

熟達については、企業の欲求と動機づけが完全に一致します。個人の能力向上こそが組織の求めることです。これは問題ありません。

目的は、コア技術の構築とは違うレイヤの問題でしょう。コア技術は手段に関わる概念で、目的とは別というわけです。エンジニアがその組織にいるからには、いるだけの理由があるはずなので、目的は既に存在することになります。辞めたい、組織を離れたいという人は、スキルアップの前にそちらの問題を解決すべきでしょう。よって、目的については解決されているものとします。

自律については、企業とエンジニアの間で欲求が相容れない可能性があります。つまり、企業が戦略的に強化したい分野と、エンジニアが興味を持つ分野が異なる可能性です。モチベーションの原則に従えば、エンジニアが取り組む分野を自分で決められるべきです。しかし各エンジニアがバラバラのことをしていては、組織能力の構築になりません。企業がコア技術を強化しようとするとき、この問題は何らかの工夫をして解決する必要があります。

KRAYの取り組み

KRAYでは2015年の7月に『KRAY社員補完計画』を始めました。KRAY社員補完計画とは、社員のスキルアップとKRAYの技術力強化を目的とし、各自が研究テーマを決め、就業時間の一部を使って勉強したり制作したりする制度です。下に社内向けの資料を貼っておきます(一部を伏せ字にしています)。

(なお、「補完」の意味は「KRAY社員はスキルが足りないから補う」ではなく、「今よりスキルを磨くことで自己実現に近づく」なんですが、伝わってないかもしれないので、この場を借りて補足しておきます)

補完計画を開始し、最初に参加者それぞれの研究テーマを決めました。上述の通り、テーマは組織のコア技術となり得るもので、参加者が興味を持てるものが理想です。実際は、補完計画開始当初にまだ社内にコア技術に関する共通の理解がなかったため、参加者の興味だけで決定しました。結果としてどうだったかというと、結局全員コア技術になり得るテーマを選択しました。理由としては、どうせやるなら仕事が楽になることを、という意図が働いたのかもしれません。

もしエンジニアが企業の戦略から大きく外れるテーマを選ぼうとした場合、企業側はどう対処すべきでしょうか。私の今の考えでは、企業側は拒否権を持ってよいと思います。つまり、テーマを却下し、別のテーマを挙げてもらうのです。拒否権の根拠は、就業時間を研究に当てることです。エンジニアは2番目(場合によっては3番目以降)のテーマを選ぶことで妥協することになりますが、それでも自分で挙げたテーマであることが重要です。

活動時間のスケジューリングは各自に任されますが、2週間に1回いわゆる朝会を行います。朝会では、前回の朝会から今回までの間に次のアウトプットに向けて行ったことと、次回までの計画、それに懸念点を指導者(補完計画においては筆者)に共有します。朝会をもつことで研究の進行を止める問題を早期に発見し、対処します。かかる時間は2〜3分、長くても10分程度です。

研究のアウトプットの形式も参加者に任されますが、会社のブログ(ここ)だけは更新が求められています。理由は下の2点です。

  • 社外に発信することでより多くのフィードバックを得る
  • KRAYのマーケティングに貢献する

フィードバックには、エンジニア自身のレピュテーションが含まれます。つまり、KRAYが何をできるかだけでなく、KRAYの誰がどんなスキルを持っているか、市場に公開されるということです。これは補完計画に欠かせない要素だと考えています。

KRAYのマーケティングについてですが、実はこのブログが大きな影響力を持っています。よって、KRAYは補完計画によってコア技術の構築とマーケティングの両方を行えることになります。

経過

ここで参加者へのインタビューを紹介します。答えてくれたのは、猫のイラスト入りのブログを書く、通称あさちゅんです。

筆者「今のテーマを選んだのは、業務上の必要からですか、それとも自分の興味からですか?」
あさちゅん「半々です。」
筆者「補完計画のなかで得たことはありますか?」
あさちゅん「ブログを書くために、知識のなかで曖昧だったところを深掘りできました。教える立場で考えられたのが良かったと思います。」
筆者「その他に補完計画についてコメントはありますか?」
あさちゅん「定期的に朝会があったので、ペースを保って進められました。」

まとめ

今回はMOT[技術経営]入門の内容を基にコア技術の概念を紹介しました。それからエンジニアのモチベーションを尊重したコア技術構築の取り組みとしてKRAY社員補完計画を紹介し、エンジニアのスキルアップとKRAYの事業に与える影響について説明しました。

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